視覚障害者情報提供施設がお送りする読書会『よむ・きく・はなす Vol.2』開催レポート 『よむ・きく・はなす』は、本を通して視覚障害者と晴眼者が出会う機会を創ることを目的にはじめた読書会です。本のこと、視覚障害のこと、なんでもいいので、会っておしゃべりして、お互いが幾分か身近になって貰えたら嬉しい、と思っています。 (Vol.1開催レポートのURLはhttps://note.com/lurie1969/n/nd2e0d300ca59 開催に至った背景を詳しく載せています。ご興味ある方はご確認ください)  さて、2回目となる今回は、2021年3月20日(土)春分の日、樋口恭介著「すべて名もなき未来」晶文社刊 所収「亡霊の場所−大垣駅と失われた未来−」を課題作とし、著者の樋口恭介氏をゲストにお招きし開催。視覚障害当事者の方2名、晴眼の方9名、取材を兼ねてご参加の記者の方1名、合わせて12名の皆様にご参加いただきました。  課題作が所収された「すべて名もなき未来」の帯文が本書籍を素晴らしく言い表しているので引用しご紹介致します。 「本書を読み、無数の物語を生きることで、あなたは、無数の未来を創り直すことができる。」同じく帯にある編集者・若林恵氏寄稿の推薦文は「これは書評であって、フィクションであって、未来論であって、そのどれでもない。わたしたちは、樋口恭介と同じやり方で、ここに書かれたことばを読み、想像し、それを未来として生きなくてはならない」    課題作の選者は、「あったかもしれない未来と現在の差分はどのようにして導かれるのか。例えば、現在の視覚障害者が置かれている社会状況や情報享受の環境は、いつか見た未来なのだろうか?だとしたらそれは一体誰が見た未来だったのだろうか?」といった問いが本作から導かれたそうです。そしてもちろんそれは、私にもあなたにも訪れている現在でもあり・・・、これは誰かと話したいと思ったとのこと。  さて、読書会スタートです。まずは冒頭、開催に至る背景や思い、簡単なルールなどをお伝えし、ご参加の皆様には2つのグループに分かれていただきました。グループ毎に視覚障害者と話す際のポイントを2点、@発言の際はその都度、名を名乗っていただくこと、A相槌は声を出していただくこと、をお願いしスタートです。ゲストの樋口さんにも早速グループに入っていただき、ご参加の皆様とおしゃべりいただきました。   グループ毎にご紹介致しましょう。  本作で『亡霊』として描かれたものは至るところにある、といった話が印象的だったひとつめのグループ。 「『亡霊』にも、懐かしい気持ちになれるようないい亡霊と振り返りたくないような悪い亡霊がいると思う。」 「色々な場所に亡霊はいる。会社の中にも。それは、力を入れてやっていたが頓挫してしまったプロジェクトなど、もう触れないことにしている問題などは『亡霊』といえるのではないか。」などと意見が交わされていくと、 樋口さんからは「会社に住む亡霊に関しては、新しく出る著書に書いているので見て欲しい」とサラッと新刊情報!  続いて「今回の課題作に出てくる梶原拓さんに対して、当時の汚職疑惑やパワハラ疑惑を取り上げていた報道とは違い、樋口さんの目線はどこか懐かしむような好意的なものに感じたが」との問いかけには、        「実際好意的に思っている。大きくものを動かせて責任をとる立場にいながら、色々な事業に実際にお金をかけて行動できる人はなかなかいない。面白い。」と回答されていました。  他には「今でこそ、この課題に出てくる横文字の意味やVRなどのアルファベットの意味が分かるが、当時は、ほとんどの人にとって自分とは全く違う世界の出来事くらいにしか感じられなかったのでは。実際、梶原の言っていた未来が来ているが、時代が追いついてきていなかったため、(梶原の発想には)周りが追いつけなかったのでは。」といった意見や       「このお話を読んだとき、寂しい気持ちになった。」といった意見まで、 みなさんそれぞれが感じられたことを話し、樋口さんへの質問などで、時間は過ぎていきます。  もうひとつのグループは、大垣という場所の話(それは岐阜とはちがう!?)や、先取りしすぎの岐阜ばなしなどが印象的でした。 「横浜にも大阪にも名古屋にもなかった当時、岐阜パルコが、池袋、渋谷、札幌に続く4号店としてオープン(言外に『なぜ岐阜?』感あり)」や「2003年に電子投票が可児市で実施されていた」、「日本の中心・岐阜」というような垂れ幕が県庁?にあったのを昔見た記憶がある。岐阜を中心にしたい願望は明らかにあったのでは。「梶原さんは楽観的すぎたのでは?」「いまやソフトピアはランドマークとして悪目立ち。名古屋でいうと港のポートビルか。」「大垣はもともと城下町なので、テクノロジーは相性としてもうひとつなのでは?ぶれている感が否めない」などなど。土地への高評価とは裏腹に、梶原県政にはかなり厳しめなご意見。他には、東濃と西濃の違いや、岐阜県と言えば水のまち、川に関する話や鉄道の話などでも盛り上がっていたようです。  この読書会ならではのエピソードもございます。当事者の方とご一緒にご参加いただいたガイドさん。当事者の方は、音声デイジーで聞き取った文章をパソコンで打ち込みテキスト化しガイドさんの携帯電話(ガラケー)へ送られたそうです。ガイドさんはそれを読んでのご参加だったのですが、『「情報通信」が「銃砲通信」になっていたり、ちょっとした入力のミスや、入力はあっているのに誤変換されて意味が変わってしまったところを読み解くのにも時間が掛かり、読み切るのが大変だった。』と笑いながらお話されていました。  また、実際に岐阜県にお住まいになっていた方が、ツインタワーの周りの情景や周辺の街の様子なども口頭で説明してくださり、それを聞いた当事者の方が「昔見えていた頃の場所は分かるけど、今はもうどんな風景かわからないので、そうやって変わっていたりする今の情景が知れてよかった」とおっしゃっていただいたりなど。  さて、読書会の醍醐味のひとつである、全く角度の違う多種多様な意見が聞けて、ひとつの作品が自分一人では考えられないほど立体的に浮かび上がってくる、という要件は多少なりとも満たすことが出来たのではないでしょうか。なぜなら、会の最後に、ゲストの樋口さんから「みなさんとお話しさせていただいたことで、自分もこのエッセーを執筆した時よりさらに考えを深めることが出来ました。ありがとうございました。」とおっしゃっていただいていたので。 樋口さん、ご参加いただき誠にありがとうございました!  終了後のアンケートから本会への感想をいくつかご紹介致します。 「読書会もはじめて。視覚障害者の方とこういう形でお会いするのもはじめてですが、作品を介して場所や思い出、政治の話まで出来るとは思っていなかった。素晴らしい時間をありがとうございました。」 「読書会は初めてです。樋口さんが参加されるということで、喜んで参加しました」 「視覚に障害がある方々と本を真ん中にお話することができました」 「いろいろの苦労がわかる。音訳はありがたい。全体的によかった」 「本を囲んで話すのが大きなポイントだと思います。(他の集まりだと)とかく不便に思っていること等の話になってしまうので」 「視覚障害者の方の生の声や感じたことを聞けてとてもためになりました」 「点訳と音訳について意見交換できたため勉強になりました」といった制作者の声も!  一方、今回は、看過してはいけない運営上の不手際もございました。次回以降の対応策と合わせてお伝え致します。 @ ご応募メールへ返信漏れ 2名様 A 当日名簿へのお名前記載漏れ 1名様 B 当日の緊急連絡先を設定していなかった 全参加者様 上記@〜Bにくわえ当日のスタッフの対応、受け答えを含め、ご不快になられた方もいらっしゃったかと存じます。誠に申し訳ございませんでした。 次回以降、メールでの受付は専用メールアドレスを用意する、もしくは受付サイトを活用します。専用とすることによって名簿への記載漏れを防ぎます。当日の緊急連絡先用に携帯電話を用意することで対応策といたします。  とはいえ、ご参加いただいた皆様から好意的なご感想をいただき、大変嬉しく思います。肩肘を張らずに、視覚障害者と出会ってみて、関わってみる。私たち視覚障害者情報提供施設は、日々の業務のみに拘泥することなく、架け橋となれそうな範囲で、そんな機会をつくっていきます。今後しばらくは、年に2回程度の読書会開催を継続していく予定です。  次回の開催は2021年9月に予定しています。 課題本、日程、開催場所など詳細決まり次第、名古屋ライトハウス情報文化センターホームページやあちこちのSNSなどで発表致します。皆様のご参加を心よりお待ち申し上げます! SPECIAL THANKS to on reading(東山公園)、喫茶アミーゴ(大須)、読書喫茶リチル(今池)、名古屋シネマテーク(今池)港まちづくり協議会ポットラックビル(築地口)、金山ブラジルコーヒー(金山)、TOUTEN BOOKSTORE(金山)、ショクドウバテリア パルル(新栄)、七五書店(新瑞橋)、徒然舎(岐阜)のみなさま。 ぐっさん、なかちペーパー。 名古屋市公共図書館全館。愛知県図書館。名古屋市総合リハビリテーションセンター、愛知県立名古屋盲学校、愛知県立岡崎盲学校、名古屋市、(順不同) ありがとうございました!